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やぎこらむ : 警察の事情聴取70回
投稿者 : koume 投稿日時: 2008-05-27 02:59:46 (636 ヒット)

警察の事情聴取70回

                                                                  八木 謙 
Ⅰ、数日前の読売新聞:
富山県射水市民病院元外科部長が家族の要望により末期がん患者の人工呼吸器を外した事件で富山県警はこの元外科部長を殺人容疑で書類送検
 2年前の事件である。今になって書類送検とは。この記事で驚いたのは警察の事情聴取が70回におよんだと載っていたことである。
 これは任意捜査であろう。強制捜査が70回も許されていいはずがない。任意だからいくらでも行うのである。彼らは仕事でやっているのかもしれないが、医師はそれに付き合っていられない。こうした捜査は明らかに憲法違反、人権侵害である。医師は拒否すべきだったのである。

憲法第38条: 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
憲法第31条: 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

 ここには警察のこのような考え方がある。犯罪者はうそをつく。何度も同じ質問を繰り返しているうちにうそではつじつまが合わない事項が出てくる。そこを突いてゆけば真実にたどりつける。いわゆる"落とす"というやつである。質問は医師が「私が殺しました」と言うまで続けるのである。医師は最後までそう言わなかった。そう思っていないからである。

 医療行為に係わることにおいての捜査でこういう手法が適当だろうか?起こった事実ははっきりしている。隠し様もないのである。

Ⅱ、別の事例:
平成19年9月、山口県医師会生涯教育セミナー104回の特別講演「異状死体届出義務の変遷」と題された講演の中で、紹介された症例の1つにこのようなものがあった。脳障害を負った小児、気管切開を行い、気管カニューレが設置されていた。入院中、夜間、気管カニューレの設置が緩み外れた。看護師が気付き主治医に連絡、医師は蘇生したが結局児は死亡。医師はこれを異状死として警察に届けた。その後の取調べの為この医師の警察への出頭が30回に及んだ。警察は「先生が看護師に気管カニューレの固定をしっかりする事を言い忘れたのでしょう」と言う。医師は「看護師が気管カニューレの固定をしっかりするのは当たり前の事だから、特に言い忘れた訳ではない」と主張。警察は医師が自分の過失を認めない為、繰り返し尋問を続ける。医師の過失とする自供が欲しいのである。だが医師は認めない。認めれば尋問は終わるのだが認めない為延々として続くのである。この死を異状死として警察に届けたが為このような事態に追い込まれた訳である。これは警察官の認識不足から来たものである。患者の異状死届け、即ち医師の業務上過失致死疑いの届け、と勘違いしている。

Ⅲ、鹿児島選挙違反冤罪事件:
その地区の住民全員が捜査の対象になり踏み絵まで行わせた事件が明るみに出た。これも同じ事である。「私は選挙違反をしました」と自供するまで尋問を続けるのである。これも警察官の認識不足から来たものである。あるいは知っていて任意捜査であるのに強制捜査と見せかけたのか。民衆も無知だったのであろう。憲法38条、31条という法の存在を知らなかった。裁判所命令の令状を見せろと言えばよかったのだ。もし本当に令状があれば逮捕しているはずである。令状なんか無かった。無いからこそ任意の出頭を繰り替えさせたのである。

これら3つの悲劇は警察の違法捜査から来たものである。いや違法捜査では無かったのだ。これは任意で行われた捜査であるから違法性はない。その事は警察も認識済みであろう。ただ警察が「これは任意捜査ですから、出頭するか否かはあなたの自由です」などと親切に言わず、単に「警察へ出頭して下さい」と言ったのである。言われた方は「はい、分かりました」と言ってしまう。だが民衆の無知を非難すべきではないであろう。憲法の条文を知り、その意図する内容まで熟知している人の方がマニアックなのだ。

 Ⅳ、第2回山口県警察医研修会
 今年の3月、山大法医学と県警捜査1課主催による警察医に対する研修会が開催された。
 講演内容から法医と県警では異状死の定義の仕方が若干異なるという印象を受けた。そこで私は講演を行った捜査1課長に質問をしてみた。

私の質問:「私は産婦人科医です。お産での母親の死亡は今の講義の警察の定義では異状死に入らない。しかし法医の定義では異状死に入る。では質問ですが、お産で母親が死亡した時に、警察に異状死の届出をしたら警察は捜査をするのか。つまり業務上過失致死を立件するための捜査対象になるのか」
検視官:「警察としてはこのような事案を認知したら、捜査の対象になるであろう」 
私:「憲法38条に守られているという保証がなければ異状死の届出ができないと思うが」 
検視官:「私の立場からは、ご協力をいただきたいと申し上げるしかない」

 このやりとりから判るように警察は法医学会による異状死の定義や医師法21条と憲法38条31条との関係をよく理解しているとは思えないのです。ただ「捜査にご協力を」と言っているのでこれは任意捜査であることはよく解っている

Ⅴ、こういう状況で我々に打つ手はあるのか
 異状死の届けあるいはその他の死で医師が業務上過失致死罪の嫌疑をかけられたとき、それが冤罪であると自ら確信出来ていれば、私は以下のような方法があると思う。とにかく70回も聴取されてはかなわないのです。
 方法:
1、憲法38条を前面に出す。
2、警察からの質問は書面で箇条書きにさせる。それに書面で答える。
3、重複した質問事項にはそれは何月何日にすでに回答済みとし、対応しない。
4、特に医師法21条による異状死届けである場合には、届出時に自分の業務上過失は存在しないと言明する。この言明によりその後、自分の業務上過失致死罪を立証する為に行われる捜査への協力拒否は正当となる。

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