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やぎこらむ : 意見書―産科医療補償制度についてー
投稿者 : koume 投稿日時: 2008-08-01 03:14:02 (646 ヒット)

意見書―産科医療補償制度についてー

                                  意見書

                              ―産科医療補償制度についてー


日本産科婦人科学会 理事長 吉村 泰典 殿

日本産婦人科医会  会長  寺尾 俊彦 殿
                        

                                                            平成20年8月1日

                                                             山口県 八木 謙

 学会及び医会は過酷な産科医療紛争による会員の疲弊を鑑み、当制度を立ち上げて下さいました事と感謝しております。第1の目的は患者救済であることは間違いありませんが、第2の目的として現状の産婦人科医の救済も含んでいることも疑いありません。後者の救済のあり方について会員の立場からの意見を述べさせて頂きます。訴訟を起こされる事が前提としての医療側からの発言ですので医師を守る立場としての思考となります。
第2の目的達成の為にはこの制度は"かなめ"となる2つの要素が欠如していると思われます。欠如している2つの要素とは①これが紛争の終点となること、②当事者の責任の追求とを切り離すこと、の2点です。

Ⅰ、紛争の終点にするには
 紛争の終点無しではこの制度は医師にとっては何の意味もない。
患者の訴権を奪うことは出来ないというのがこれが盛り込めない理由だという事ですが、こうした事は一般の民事訴訟、例えば離婚訴訟等では極当たり前に行なわれている事である。お金だけ受け取らせて念書にサインを貰わないのは間が抜けているとしか言いようがない。「これだけ頂いたのだからこれできれいに終わりにしましょう」あるいは「こんな金額じゃ納得できない。サインしない」そうした駆け引きは当然ある。念書も貰わず、ただ金品だけ渡すのは、これはただのプレゼントに過ぎない。
被保険者は医師である。当然保険料を請求するのも医師である。医師は「これで紛争の終点にする」という患者の念書が無ければ保険料請求はしないと言う事は違法ではない。その主張は当然の権利なのである。念書を書くのが嫌で補償金が出ない患者には訴訟を起こす権利は当然残っている。どこにも違法性は無い。訴訟を起こす権利は患者にある。その権利を破棄する代わりに医師から医師が懸けていた補償金を貰う。ここに何も違法性は生じない。

Ⅱ、補償金の支給条件
(イ)、小児科医の補償対象であるという診断書。(ロ)、産科医の補償該当分娩であったという証明書。この2通の書類のみ整えば補償金は支給されることとする。補償金の支給に関して調査機関の報告書は必要としない。
いや、もし大変、奇特な医師であり念書なしで保険請求を書いて上げますよというならそれは本人の自由である。それを止めることは出来ない。何人もそれを止めることが出来ないのと同様、学会、医会そして当制度委員会も医師が患者から念書を取ることを禁じる事は出来ない。

Ⅲ、当事者の責任の追求とを切り離すには
前項の(イ)と(ロ)を満足させれば補償金は支払われることにする。支払いに関して調査機関の報告はその効力を持たせない。
 この制度で患者の救済と事故の原因究明の一石二鳥を狙おうとするのは虫が良すぎるのである。この制度は救済処置のみに徹するべきである。これを利用し患者の救済、医師の救済、学問の追及、民事及び刑事責任の裁定等、一石四鳥を狙っても無に帰すであろう。そううまく行くものではない。

Ⅳ、事故原因追求はこれと別個の機関を駆動すべきである。
 日本産婦人科学会が今年2月29日に発表した「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等のあり方」に関する見解と要望の中の精神に示されていると同様に、脳性麻痺の原因追及に関しても、これを厚生労働省の下部組織におくべきではない。理由はその見解と要望に述べてある事と同様で、①事故に関わった医療提供者が真実を語れない。②調査報告書の内容が不正確となる可能性が生じる。③医療全般の萎縮を招くことにより医療の進歩が遅れるのみならず、医療の提供者と受給者の信頼関係を損ない社会に悪影響を及ぼす。と言った付帯事項が生じるからである。事故原因追求は別箇の独立した機関を設置すべきである。
 更に私が最も危惧する流れの構図は以下のようなものである。日本医療機能評価機構が事故原因を調査する。事故調査委員会の報告書が当該医療機関のみでなく患者家族にも渡される。この制度が適用になった家族を弁護士が探し出し、訪問する。弁護士は「報告書を鑑定させてくれないか」と言う。「いや鑑定だけだから、そして鑑定料は無料ですから」と言う。鑑定の結果、勝てそうな物件を選び「お宅の場合は3000万で泣き寝入りすることはないですよ。1億は下らないです。裁判したらどうですか。お手伝いしますよ」と言う。結果、訴訟件数は増加する。

Ⅴ、クライアント契約
こうした流れを食い止めるため、事故原因追求は日本医療機能評価機構と別の機関に置く。
例えば医会支部内に事故報告事務局を設置する。報告書は医会会員全員とクライアント契約を交わした県弁護士の事務所内の金庫室に保管する。この金庫室には支部長他医会の数人の事故調査委員しか入る事が出来ない。ここで事故内容を審議する。結果は事件番号で本部に報告し実名は出さない。本部で統計処理をする。こうする事によって会員は安心して本音を報告する事が出来る。

Ⅵ、判定
 審査員は臨床に携わっている産婦人科医で構成されるべきである。専門性は必要である。他科の医師や医師以外の委員を判定に介入させるべきではない。その科の常識的な医療水準を熟知している事が必要である。
 判定は①該当事件は当時の医療常識から逸脱した医療過誤が認められる。②医療常識内の出来事である。の2つにどちらかとし、審査内容は公開しない。これは例えば大学受験の答案用紙の審査のようなもので、合格か不合格かの発表でよい。医療に100点満点中100点をとるような答案は存在しない。95点の高得点を取ってもマイナス5点の原因は何かと追求することは出来るのである。医療裁判はこのマイナス点の洗い出しに過ぎないのである。大学入試の合否の際に合格した者、不合格だった者の答案用紙を公表すれば不合格を出した生徒の予備校の先生は自分の生徒と合格した生徒の答案用紙をつき合わせ、採点の付け方に不服を申したてる事になる。特に論文形式ではそんな事をすれば収拾がつかなくなる。ここはこの大学の審査員が決定した合否事実を公表するだけでよい。
 予備校の先生は模範解答を作成できるかもしれない。しかし本番でこの通りの答案を書ける生徒はいるだろうか。一発勝負の試験なのだ、当然緊張もある。医療行為も1つ1つが本番で真剣勝負であろう。予備校の先生が後になって模範解答を示すのは簡単である。自分は100点満点中100点の医療を行っていると豪語する医師にこれ以上の進歩は望めない。彼の学問はそれでストップしている。学問の進歩の為にマイナス5点の追及は必要である。だがそれは大学入試の合否と距離を置いたレベルで行なわれなくてはならない。

Ⅳ、患者家族への説明
 患者家族は該当医師のみでなく、この調査にあたった医会支部内の事故調査委員会から調査結果を聞くことが出来る。回答は①医療過誤が認められる。②医療常識内の出来事である。の2つにどちらかとし、審査内容は公開しない。
 調査委員会はこの先生は合格ですよと家族に伝えればいいのである。もし不合格でしたと伝えた場合でも、この結果は今後の医療に必ず反映されますと説明する。患者がそれを不服として訴訟を起こすならそれは自由である。ただこの答案用紙は渡さない。訴訟を起こし3000万のところが1億になるかもしれないし、1000万あるいは敗訴になるかもしれない。補償金を受け取るか、それを拒否して訴訟するかの患者の選択権は保障されている。

Ⅶ、最後に
 この補償制度にこれが①紛争の終点となること、そして②当事者の責任の追求とを分離すること、の2点を盛り込んで頂きたい。具体的には患者側から念書を取る事を禁止しない、機能評価委員会の調査を拒否できる権利を認める。この2つを認める事は、この補償制度第一目的である患者救済を侵害する事にはならない。

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