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やぎこらむ : あなたには黙秘権がない
投稿者 : koume 投稿日時: 2012-01-05 15:00:00 (570 ヒット)

あなたには黙秘権がない 
                                                                                           

                                                                                                                         玖珂郡医師会 八木 謙
   You have the right to remain silent.(あなたには黙秘権がある) 「あなたには黙秘権がある。あなたの供述は、法廷であなたに不利な証拠として採用されることがありうる」これはアメリカの刑事ドラマや映画で犯人逮捕のときに読み上げるおなじみの文章である。アリゾナ州ミランダ事件以降確立されたものとなった。この権利を読み上げないで得た供述は裁判では証拠として採用されない。また違法な捜査によって得た資料も証拠として採用されない。誘拐・婦女暴行で捕まったミランダはこの権利を知らされなかったまま供述させられたとして無罪となった。そこまで徹底しなければ国民の権利は守れないというのだろう。
 今回、医療事故調査に関する検討委員会が日医原中勝征会長に提出した「医療事故調査制度の創設に向けた基本的提言」に対する答申を見て思うのである。ここにはこう記載されている「①医師の職業規範・自己規律とその社会的責務において事故の原因を究明し再発を防止する制度を自立的に構築・運営する。 ②医療事故は刑事司法の問題としない。③調査結果は公表するが警察には通報しない」このように書かれている。しかしそうは言っても、"医療事故は刑事司法の問題としない"とは事故調査委員会が自分でそう主張しているだけであって、警察が刑事司法の問題にするか否かは警察が決めることである。また"世間には公表するが警察には言わない"と言っても警察が知るのは時間の問題であろう。つまり事故調査委員会が調べた事は裁判で証拠として採用される事は疑いようもない。
 この法案が通れば事故調査委員会の実質的な強制調査の前に医師は自白を迫られることになる。
 このことはすでに産婦人科境域で立証済みである。産科医療補償制度において分娩障害児と認定されたものには患者側に補償金3000万円が支払われるが、その場合事故調査委員会の調査を拒否した医療機関はこの制度から外されることになっている。患者に補償金は支払われない。これでは医師が自主的に告白しているという体裁を取らせつつその実は自白を強制されているのと同じ事だ。
 先日その機関からの調査結果が発表された。調査した分娩事故症例15例のうち9例に不適切な医療行為があったとする結果だった。後から調べれば何かの不備は出て来るだろう。これはただ揚げ足を取っているに過ぎない。補償対象となっている症例はすでに178件に達している。全てを調査するとこの割合からいけば100件以上の不適切事例が出て来るであろう。心配なのはこれを見た医療事故訴訟専門の弁護士が勝算のありそうな症例を選んで訴訟を誘発して来るのではないかという事である。また死亡については、分娩による妊婦死亡も医会本部に届けそこからの調査を受ける事となった。その研究班の調査結果も先日発表された。昨年1年間に全国で出産時の大量出血で死亡した妊産婦は16人おり、うち10人は処置が適切だったならば救命できた可能性が高いと結論した。医師に過失ありと言っているのは明白である。片手落ちと感じるのは医師の反論の場が設けられてない事である。
   問題なのはこのような供述が強制力を持って行なわれていいかという事なのだ。真実の追求が必要なのは明らかである。しかし患者の権利を守るというきれい事をもって医師の基本的人権を奪っていいものだろうか。
  明治憲法下では犯罪者が白状するのは当然の義務であり、この義務を冒し白を切るのも犯罪と認識された。江戸時代もしかり。よって自白の為の拷問も取り調べる側には当然であった。しかし現憲法下ではその38条に"何人も、自己に不利益な供述を強制されない"とあり、どんな極悪人であろうと彼の基本的人権は保障されている。
   今度の医療事故調査に関する検討委員会はこの産婦人科領域で起きた間違いを踏襲しようとしている。これは憲法違反なのだ。間違いを繰り返してはならない。
患者に訴権があるのは当然である。この権利を奪ってはならない。しかしその権利の施行の為に医師の自白を強要するという手段を用いてはならないと言っているのだ。カルテ押収等の法的手段は残されているのだから。
   真実の追究は大切である。しかし真にそれを行なう為には当事者医師の心の中まで踏み込まなければ真の回答は得られないであろう。それには飛行機事故調査と同様に当事者医師の法的責任を免徐の上、調査に協力させなくてはならない。
   そのような法的処置を講ずるか、あるいはその証言に証拠能力を消失させる法的処置を行なう。つまり裁判で使えないようにするか。1つの方法はこれを憲法38条違反であると前面に提示することである。調査団は違法である事を承知の上で強制的聞き取りを行なう。こうして得られた情報は医学的資料としては有用であるが、法廷での証拠能力を持たない。ミランダ権利を逆手に利用するのである。問題は違法行為をする調査団が罪を着せられることになるのではないかという事であるが、この調査団の違法行為は罪を問わないという法を作ってしまえばいいのである。
   これらは法を書き換えるという事だが、法を書き換えなくても現行法のままでも出来る方法もある。それはこの調査委員会の各委員会のトップに弁護士を置く。その弁護士と調査を受ける医師がクライアント契約を結ぶ。弁護士の守秘義務は刑法に定められているものであるから機密性は担保できる。調査委員は得られた資料の中から学問的に有用なソースを持ち出して行けばいいのである。全体像は公にしない。
   私の貧弱な頭からもこの真実を得かつ医師を訴追しないという方法はいくつか見つかる。医療事故調査委員会も頭を絞りいい方法を模索して欲しい。
それを作り上げた後、医療事故調査委員会は聞き取りを始める前に医師にこう告げるのだ。これは日本版ミランダ警告と言える。「あなたには黙秘権がない。ただしあなたがこれから述べる事は法廷では採用されない」

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