最新ニュース
やぎこらむ : 医師法21条と憲法38条
投稿者 : koume 投稿日時: 2008-04-30 23:00:00 (987 ヒット)

医師法21条と憲法38条

                                                               八木 謙 
 医師法21条は悪法か。医師法21条がある為、我々医師は本来、警察の捜査など必要としない患者の死を警察に届けなくてはならない。届けられた警察は警察の性質上、捜査を開始しなくてはならなくなる。この死は犯罪に関連するか否かと。業務上過失致死も犯罪である。刑法上の犯罪にあたる。そこで業務上過失致死が成立するか否か医学知識の無い者が調べることになってしまう。煩わしいかぎりである。
 医師は常日頃、患者の死と隣り合っている。予期せぬ死も往々にしてある。これらを届けるとすべて捜査の対象となる。それは医師にとって苦痛で煩わしい。その煩わしい業務上過失致死罪が課せられることを申告せよと医師法21条は言っている。これは憲法38条違反ではないか。憲法38条「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」に医師法21条は抵触する。明治時代この法が作られたときには医師の業務上過失致死罪という概念は無かったのだ。現代においては医師法21条を書き換えるべきであるという動きが出てきた。私もこの21条は書き換えなくてはならないと思っていた。医師法21条と憲法38条は同時に両者は成り立たない。現在の医師は医師法21条がある為、日本国民なら罪人でも補償されている憲法38条に護られていない。
 ところが先日ある最高裁判決を目にした。衝撃的な判決文であった。それは医師法21条は憲法違反であるとする訴えに対し、医師法21条は憲法違反ではないとする判断を下した判決であった。衝撃を受けたのは私の望む判決を最高裁が出さなかったからではない。その逆で、最高裁の下した判決文の理論構成に感動したのである。今までの悩みが吹っ切れ、霧が晴れ何もかもすっきり見えて来た。判決文はこう言う、「本件届出義務は、医師が、死体を検案して死因等に異状があると認めたときは、そのことを警察署に届け出るものであって、これにより、届出人と死体とのかかわり等、犯罪行為を構成する事項の供述までも強制されるものではない」また「医師法21条にいう死体の『検案』とは,医師が死因等を判定するために死体の外表を検査することをいい,当該死体が自己の診療していた患者のものであるか否かを問わない」とある。
 犯罪行為を構成する事項の供述までもは強制されない。ただ届けるだけでいいのである。それに検案するのは主治医である必要はない。検案した医師が届けるのである。なんと、医師も憲法38条に護られていたのだ。
 患者が死んだとき、それが異状死の定義に入れば届ける。ただ届けるだけでよく、その後の警察の捜査に応じる義務はないということになる。医師側に自分の無罪を証明する義務はない。警察側に医師の有罪を証明する任務がある。その任務に医師が協力する必要は無かったのである。自分が罪に陥ることが目的となる捜査に協力しない、という態度を取ることでいい。

 法医学会の異状死の定義:
【4】診療行為に関連した予期しない死亡、およびその疑いがあるもの、の中の(1)と(2)を見る。
(1)注射・麻酔・手術・検査・分娩などあらゆる診療行為中,または診療行為の比較的直後における予期しない死亡.
(2)診療行為自体が関与している可能性のある死亡.
 異状死を届けるとき、これは法医学会の【4】の(1)の異状死の定義になるから届けたのであると言う。業務上過失致死の疑いがあるから届けたのではないと言明すれば、その後の警察への捜査拒否は正当である。カルテも見せなくてもよいし、警察への出頭、警察官の面会にも応じる必要はない。これは任意捜査なのである。協力するしないは医師の勝手である。我々も憲法に護られているのだ。
 もし、自分で過失の疑いがあると感じられれば、(2)の診療行為自体が関与している可能性のある死亡、として届ければいい。業務上過失致死罪で審判が下されるか否か、それは腹をくくるしかないだろう。届出しないで隠し遂せるものではない。届けていた方が情状酌量の余地がある。
 安全基準について、学会等がガイドラインを作り明文化しておかなくてはならない。安全基準を守っていて、なお起こった急死は(2)ではなく、(1)と認識してよい。
 兎に角、異状死の定義に入るものは届ける。届けても我々は憲法38条、憲法31条に護られているのである。

 しかしそれでも事件性の無い死まで届けるのは煩わしい。すっきりするためには医師法21条を書き換えるべきだ。との意見もあるだろう。
だが、もし医師法21条を、"事件性がある疑いの死は警察に届ける"と書き換えたとしたら、このような場面が想定できる。
 あるやくざの親分の家で「朝起きたら、うちの若い者が布団の上で動かない。診て呉れないか」と言われて往診に行った。死んでいる。親分は「こいつは前から心の蔵が悪かったんだ。心臓の発作ですかね。身体はどこもきれいでしょう」医師が異状死として警察に届けたいと言うと、「警察沙汰にするだって、あんた、じゃあ何かい。私の家でなにかあったとでも言うのかい。さっさと死亡診断書を書いてくれよ。死亡診断書がなきゃ、葬式も出してやれないし埋葬も出来ないじゃないか。もしあんたが警察に届けて、解剖でもなって、それで心臓発作と判ったときは、あんた覚悟できてるだろうな」、と言われて警察に届けず死体検案書を書いて、そのまま火葬になったら、医師はこのトキツカサ組の証拠隠滅に加担させられてしまったことになる。親分にそう言われても「いや、あなたを疑っているなんてことは毛頭ない。これは法律で届出が要るんです。届けなかったら私が罰せられる。事件性があるなんてこれっぽっちも考えていませんよ」と今の医師法21条なら言えるのである。この医師法21条は医師を護っている。

最高裁判決文
http://homepage3.nifty.com/medio/watching/hanrei/160413-hanrei.htm
異状死の定義(法医学会)
http://web.sapmed.ac.jp/JSLM/guideline.html

印刷用ページ 



COPYRIGHT c 2006 Yagi Column. ALL RIGHTS RESERVED.